技術資料

パルスドキセノン殺菌装置

光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課

キーワード

キセノンフラッシュランプ,パルス,殺菌装置,微生物

1.はじめに

光の殺菌作用が,1901年に太陽光線に含まれる紫外線(以下UVという)から確認されてから1世紀が経過した現在,UVを発生させるランプにより,熱ではできない(例えば,変質してしまう)が光で可能となったり,薬剤殺菌のように,薬剤の残留性の心配がいらなくなるなど大きな特徴を持ち,広範囲の分野でこの殺菌が有効に利用されている。

今回紹介する「パルスドキセノン殺菌装置」もキセノンフラッシュランプを搭載した装置であり,光(パルス)滅菌装置という名前を最近よく耳にする方も多いのではないだろうか。この装置は,キセノンガスを封入した光源をパルス(瞬間的)点灯させて,その光によって滅菌するのである。そこから,この装置のことを「パルスドキセノン殺菌装置」という製品名にした。

本装置の特長として,

  1. 高レベルの殺菌能力がある
  2. ワークに熱を与えない
  3. 殺菌にもっとも効果的な波長の紫外線を放射する
  4. 瞬時点灯により安定した照射を行い,遮断するシャッター機構が不要
  5. ランプには水銀などの金属を使用していないので環境にやさしい

などがあげられる。

実のところ本処理技術の検討は,今回が最初ではなく,1980年代に容器やフィルムにおける殺菌への利用が検討されていた。筆者の推測するところでは,その当時の装置ではパワーが不足し,さらには機械的に優れた低圧水銀ランプの高出力タイプの登場などにより実用化が進まなかったものと思われる。

ところが,1996年に食品分野ではあるが,FDAの認可を取得した光パルス滅菌装置を米国のピュアパルス社で開発したことが日本に紹介されたのである。しかし,その装置の能力を確かめるにも,日本では生産機として1セット導入されているのみであり,その効果確認もむずかしい状況であった。

そこで,UVからEB(電子線)までの殺菌・滅菌装置を製造販売している岩崎電気(株)も,その有効性から装置開発を進めていたので紹介する。

2.光照射でなぜ殺菌できるか?

図1 殺菌作用の分光特性

光による殺菌の機能については,古くから研究されていていくつか報告1)2)3)4)されているが,未だ解明されていない部分も多くある。ただし,殺菌機能を簡単に説明すると,光が微生物の細胞(特に核)に照射されることにより,細胞内で光化学反応が起こり,細胞分裂ができなくなるのである。

光といってもどんな光でも効果があるのではなく,殺菌に作用する波長範囲があって,この光の波長と殺菌作用との相関関係を示すと図15)のようになり,UV-Cの領域(100nm~280nm)のUVが殺菌作用を示し,特に260nm付近のUVが最大に作用する。

表1 各種光源と特徴
ランプ名 特徴 分光特性
低圧水銀ランプ 254nmを主波長として発光していることから殺菌ランプとも呼ばれている。低圧ということから入力(W)の限度があり,4W~1kW程度のランプとなる。つまり,殺菌に作用する放射照度も限度がある。また,高ワットになればランプ長が長くなる。 分光特性:低圧水銀ランプ
高圧水銀ランプ 365nmを主波長とし,254nm,303nm,313nmのUVを効率よく発光する。低圧水銀ランプより,入力電力(W)から殺菌に作用するUVへの変換効率が悪い(1/5~1/10程度)。ただし,入力(W)が多くとれ,30kW程度のものもあるので,放射照度が多くとれる。しかし,温度も高温となるので注意が必要。 分光特性:高圧水銀ランプ
図中の実線はスタンダードタイプ
点線はオゾンレスタイプ
パルス発光キセノンランプ
UV領域からIR(赤外)領域までの連続発光。半値幅が100μ秒位でパルスで発光するので瞬間的に低圧水銀ランプの1,000倍以上の放射照度となる。パルス発光であるので基材温度上昇も少ない(ただし,多数回の照射は温度上昇)。1回に多くの放射照度を得る場合は,電極等に負荷がかかるのでランプ寿命に注意が必要。 分光特性:パルス発光キセノンランプ

3.光源について

前述した殺菌に有効な光は,地球上には太陽光線とオゾン層で吸収されるため自然界にはほとんど存在しないが,われわれはランプとしてその光を人工的に得ることができる。一般的には殺菌用のランプとして,前述した通り殺菌作用の大きい260nm付近(正確には253.7nmの輝線)を発光する(表1参照)低圧水銀ランプが使用される。しかし,殺菌作用のUVは領域を持っていることや図2の通りランプの種類も数多くあり,その特徴に合わせ表1に示したランプの機種を選定して搭載した殺菌装置が考えられ,用途に合わせた装置選定も可能な時代になってきている。今回のキセノンフラッシュランプもその一つといえる。

     ┌熱放射────────────白熱電球──────────────ハロゲン電球
     │                     ┌低圧水銀ランプ───┬殺菌ランプ
     │                     │          └紫外用蛍光ランプ
     │              ┌金属蒸気放電┼高圧水銀ランプ───┬紫外用水銀ランプ
     │              │      │          └超高圧水銀ランプ
     │              │      ├メタルハライドランプ─紫外用メタルハライドランプ
     │         ┌(有電極)┤      └その他────────カドミウムランプ,ほか
     │         │    │                 ┌ロングアークキセノンランプ
     │         │    │      ┌キセノンランプ───┼ショートアークキセノンランプ
     │      ┌放電┤    └希ガス放電─┤          └キセノンフラッシュランプ
紫外線光源┤      │  │           └その他───────┬重水素ランプ
     ├ルミネセンス┤  │                      └アルゴンランプ,ほか
     │      │  ├(無電極)─無電極放電ランプ──────────メタルハライドランプ,ほか
     │      │  └(無容器)─カーボンアーク
     │      └固体発光────発光ダイオード───────────紫外用発光LED(LED(C-BN))
     │                                ┌金属蒸気レーザ(He-Cd)
     │         ┌気体レーザ─────────────────┼エキシマレーザ
     ├レーザー発光───┤                      └イオンレーザ(Ar),ほか
     │         └液体レーザ──────────────────色素レーザ
     ├シンクロトロン放射(SR)
     └太陽光

図2 紫外線光源の分類

参考文献

  1. 武部啓:DNA修復,東京大学出版会,pp.1-19(1983).
  2. 山口彦之:放射線と生物,啓学出版,pp.51-140(1981).
  3. 江上信雄:生き物と放射線,東京大学出版会,pp.104-113(1986).
  4. 芝崎勲:防菌防黴,14,pp.251-260(1986).
  5. 照明学会:ライティングハンドブック,オーム社(1987).

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