施設報告

横浜スタジアムの照明設備 - プロ野球屋外ナイター球場照明設備初のLED化 -

国内営業本部 東日本技術設計センター
国内営業本部 横浜営業所
国内営業本部 営業技術部
国内営業本部 営業技術部 営業技術企画課
国内営業本部 営業技術部 照明研究課
国内営業本部 営業技術部 LCS

キーワード

横浜スタジアム,LED,日本初,省エネ,高効率,ハイビジョン撮影,ハイスピードカメラ,調光

1.はじめに

プロ野球のナイトゲームは,1948年に横浜スタジアムの前身である横浜公園球場(横浜公園平和野球場)で初めて開催され,1978年にはその跡地に「横浜スタジアム」が建設された。

当初の横浜スタジアムのナイター照明は,1000Wメタルハライドランプと700W高圧ナトリウムランプの混光照明だったが,2000年~2001年にハイビジョン対応と照度アップのため,高演色形と高効率形の1500Wメタルハライドランプに全面改修が行われた。

プロ野球の屋外ナイター照明設備が全面的にHIDからLED化されたのは,今回紹介する「横浜スタジアム」が日本初である。日本のナイター照明発祥の地に立つ「横浜スタジアム」は,プロ野球屋外球場のLED照明によるナイトゲーム開催の幕開けの地ともなる(図1,図2,図3)。

図1 昼の全景

図2 夜の全景1

図3 夜の全景2

2.照明計画

2.1 設計コンセプト

当該球場の照明設計は,次の点に留意して行った。

  1. 必要な照度を確保しつつ,全体の消費電力を削減すること。
  2. 照明鉄塔の重量負荷を軽減すること。
  3. ハイビジョン撮影に適応した演色性を実現すること。

そこで今回,これらの目的の達成に適した照明器具として,高効率の760W高演色形LED投光器(LEDioc FLOOD DUELL™)を採用することにした。この投光器の製品仕様を表1に示す。

表1 製品仕様(LEDioc FLOOD DUELL)
器具外形寸法 547mm×542mm,前面径:ø461mm
入力電圧 200V
周波数 50/60Hz共用
入力電流 3.9A
消費電力 760W
電気容量 780VA
質量 器具本体:18kg,電源装置:12kg
塗装 重耐塩塗装
配光種類 中角配光,広角配光,超広角配光
定格光束 85000ℓm
固有エネルギー消費効率 111.8ℓm/W
色温度 5000K
平均演色評価数 Ra80
光束維持率 85%
LEDモジュール寿命 40000時間
使用周囲温度 -20℃~+35℃
(一時的に50℃まで温度上昇する場所での使用可)
点灯制御 パターン・グループ・個別点灯及び調光制御可能
初期照度補正機能 標準装備
調光可能 100%~25%
設置台数 660台

2.2 照明設計

配光は,中角・広角・超広角配光の3種類を使い分け,中角配光は主に水平面照度を確保する目的で使用し,広角配光,超広角配光は,主に水平面照度と空間照度を確保する目的で使用し,プロ野球開催時の設計照度(バッテリー:2,750ℓx以上,内野:2,000ℓx以上,外野:1,650ℓx以上)を確保するように,器具選定及びエイミングを行った。

屋外照明設備及び付帯設備の設置台数を表2に示す。

表2 屋外照明設備一覧
仕様 数量(台)
グラウンド照明 LED760W投光器(中角配光)
(LEDioc FLOOD DUELL)
362
LED760W投光器(広角配光)
(LEDioc FLOOD DUELL)
200
LED760W投光器(超広角配光)
(LEDioc FLOOD DUELL)
98
同上用LED定電流電源装置 660
イベント用観客席照明 LED80W投光器(広角配光・電球色)
(LEDioc FLOOD BLITZ™)
24
主制御装置 スイッチパネル+タッチパネル
(ITACS™(アイタックス)LBシステム)
1
副制御装置 タッチパネル+押ボタン 1

3.照明設備

3.1 設備概要

既設照明設備は1500Wメタルハライドランプ708台(高演色形402台,高効率形306台)を,高効率の760W高演色形LED投光器(固有エネルギー消費効率111.8ℓm/W)660台に改修し,総消費電力を約56%削減した。器具台数を減らす一方で,プロ野球開催に必要な照度を既設同等以上に確保した。また,初期照度補正機能により,設置初期から寿命末期まで設計照度を保ちつつ,初期の電気使用量の削減を可能にした(図4,図5)。

LED電源装置は,LED器具とLED電源装置間の配線長を50mまで可能な別置形電源装置を使用することで,鉄塔下部に電源装置を設置することが可能となり,鉄塔の重量負荷を軽減した(図6)。

ハイビジョン撮影に対応した平均演色評価数Ra80のLEDを採用し,スーパースロー再生で用いられるハイスピード撮影時の明暗を繰り返す「ちらつき」を独自の電源回路設計により防止し,フリッカレス点灯を実現した。

図4 照明鉄塔全景

器

図5 LED投光器

図6 LED電源装置

3.2 点灯パターン

野球は,野球1(プロ野球点灯)~野球5までの5パターンでの照明点灯が可能で,アメフトは,アメフト1~アメフト3までの3パターン,その他に,外野を除く4基を点灯させたイベント1~イベント5の5パターンが点灯可能である。

全照明を点灯させる野球1(プロ野球点灯)以外の点灯パターンは,すべて間引き点灯で行うようにした。これは,低い照度レベルの点灯時に,少しでも使用電力量を削減したい意図からである。

なお,間引き点灯時においても,各点灯パターンで照度均斉度は満足するものとしている。

3.3 イベント用観客席照明

図7 LED80W投光器(イベント用観客席照明)

スタジアムをコンサートなどのイベントに使用する時に,観客席を照らす照明としてLED80W投光器(電球色)を設置した。今までは,非常用照明として設置していた500Wハロゲン投光器をイベントの時に使用していたが,新たにLED80W投光器(電球色)を設置することにより,イベント用と非常用で照明を使い分けられるようにした(図7)。

3.4 照明制御システム

図8 主照明制御盤

本施設では,LED照明の能力を最大限に生かせる照明制御システムを採用した(図8)。既設照明制御盤では,グラフィックパネルにより照明の点灯状態を確認していたが,今回採用した照明制御システムにより19インチタッチパネルで点灯確認が出来るようになった。スイッチ操作パネルの他に,このタッチパネルからも照明の点灯・消灯・調光や分電盤の故障監視を行うことが可能である。

調光制御は100%~25%まで可能で,イベント時や電力供給が不安定な時の節電対策には,調光してパターン点灯を行うことが可能である。

新たに追加された電力積算機能により,1日,1ヶ月,1年単位で使用した電力のグラフ表示や,CSVファイル出力により管理することが可能である。また,点灯積算時間機能を使用して,初期照度補正を照明制御盤で行っている。

図9 副照明制御盤

主照明制御盤の他に,利用頻度の高いパターン制御の点灯・消灯を行うため,副照明制御盤の改修も行った(図9)。既設副照明制御盤では,押ボタンスイッチで点灯・消灯を行っていたが,今回,新たに納めた副照明制御盤は,押ボタンスイッチでの点灯・消灯の他,カラー液晶タッチパネルからの点灯・消灯・調光制御が行うことが可能で,操作性が向上した。

3.5 付帯設備

図10 1塁側ブルペン(フランチャイズ)

1塁側ブルペン(フランチャイズ),3塁側ブルペン(ビジター),屋内練習場の3施設においても,グラウンド照明と同様にLED化を行った(図10~図12)。

1塁側・3塁側ブルペンは,高さ4.5m程度のところに設置されていた1000W・400Wメタルハライドランプと高天井照明器具の組み合わせを,LED170Wアイランプと高天井照明器具の組み合わせに改修した。低ワットのLEDランプを使用し,器具台数を増やすことで,空間照度と照度均斉度を向上させた。照明環境の向上と共に,総消費電力を1塁側ブルペンは57%,3塁側ブルペンは59%削減した。

図11 3塁側ブルペン(ビジター)

図12 屋内練習場

屋内練習場は,高さ8.5m程度のところに設置されていた1000W・700Wメタルハライドランプと高天井照明器具の組み合わせを,LED650W高天井照明器具に改修した。超広角配光を使用することにより,器具総台数を60台から50台に削減しつつ,空間照度と照度均斉度を向上させた。照明環境の向上と共に,総消費電力を38%削減した。

屋内照明設備の設置台数を表3に示す。

表3 屋内照明設備一覧
仕様 数量(台)
1塁側ブルペン
器具
LED高天井照明器具
セード形式
SAW415
ガード形式
GSAM41
光源
LEDioc® LED アイランプ® SP 170W
ランプ形式
LDRS170N-W-E39/HBA
56
3塁側ブルペン
器具
LED高天井照明器具
セード形式
SAW415
ガード形式
GSAM41
光源
LEDioc® LED アイランプ® SP 170W
ランプ形式
LDRS170N-W-E39/HBA
37
屋内練習場
器具
LED高天井照明器具(超広角配光) (LEDioc HIGH-BAY DUELL™)
光源
LED650W タイプ
50

4.おわりに

現地調査,照明実験,試験設置,商品開発を行い,要求事項を満足する照明器具・照明環境を納めることができた。

最後に,本照明設備の納入にあたり,ご指導,ご協力頂きました関係各位に深く御礼申し上げる。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第33号掲載記事に基づいて作成しました。
(2015年11月4日入稿)


テクニカルレポートに掲載されている内容は、原稿執筆時点の情報です。ご覧の時点では内容変更や取扱い中止などが行われている可能性があるため、あらかじめご了承ください。