施設報告

無印良品の照明計画 - 天王寺店およびみなとみらい店 -

株式会社ライトキューブ 設計企画部

キーワード

無印良品,照明計画,天王寺店,みなとみらい店,商業施設,セラルクス®,省エネ,既設設備の改装

1. はじめに

1980年,株式会社西友のプライベートブランドとして40品目の商品でスタートした無印良品は,1989年に株式会社良品計画として独立し,現在5000品目を超える商品を展開している。店舗数は国内での直営店が105店舗,西友を始めとしたフランチャイズ店が169店舗,計274店舗のほかイギリスやフランスを中心に海外にも22店舗を構えている。

それらの中にはオープンして10年近く経過してしまった店舗も多く存在している。それらの店舗で使用している照明器具やランプは現在普及している物と比べ,ランプ効率が悪く,演色性も低い上,ワット数(消費電力)が高くなっている。照明設備を改装することで,ランニングコストを半分近くまで落とすと同時に,店内を明るく見せることにより通り掛かった人を店内に引き込むこと,また従業員に良い緊張感を持たせることで,店内に活気ある空気をもたらすことが目的である。

照明設備のみ改装した天王寺店(大阪府大阪市)と新規店舗のみなとみらい店(神奈川県横浜市)を例に照明計画について述べる。

2. 照明設計

無印良品の照明計画では,壁面と一部のステージやレジ以外は基本的にベース照明だけで賄っている。これは,什器の配置換えが多い為に什器当ての照明を設置しても,その後の配置換えにより,あまり意味をなさなくなってしまうからである。その為,ベース照明は配光をやや広めにすることで鉛直面照度を補い,什器自体が作ってしまう影で商品が暗くなるのを極力防いでいる。ベース照明は各店舗の天高や天井のタイプ,周囲の照度などによって違ってくるが,セラルクス®150WかFPL蛍光ランプを使用している。設定照度は,ベース照明しかないことを考慮し,やや明るめの1300ℓx(机上面,維持照度)を目安として設計している。

このようにベース照明をメインにして,全体的な明るさを感じさせたい場合には,視覚照度を充分に確保することが重要になってくる。視覚照度とは,実際に床面に落ちてくる照度ではなく,人の目で感じる明るさ感のことで,これを確保するには視界に入ってくる壁面やステージ,天井などを明るくすることが大切である。具体的に言うと,陳列棚の背が高く商品量も多い壁面什器は,ベース照明をやや什器の近くに配灯し,什器の上段の明るさを確保する。さらにライティングダクトを使用し,スポットライトで中段から下段を照射する。また,入り口部分はベース照明の種類に関わらず,セラルクス®150W,もしくは*CDM-R70Wを使用し,店内と比較して2~3割明るくなるように設計している。このように入口部分と壁面の照度を明るくし,視覚照度をアップさせることで,集客力を上げることを目論んでいる。

CDMは、日本フィリップス(株)の登録商標です。

3. 施設概要

3.1 天王寺店

天王寺店は,1995年にショッピングセンター「天王寺ミオ」がオープンした際に開店した店舗(図1)で,2003年8月に改装するまで照明に関しては殆ど手を加えていなかった。改装前のベース照明は,メタルハライドランプ250Wのペンダントを使用していた。

天王寺店は,壁・天井・床の三面全てが灰色で,更に天井がスケルトンの為,視覚照度が確保しにくい意匠となっている。しかも天井面にはダクトが張り巡らされており,照明器具を設置出来る場所が非常に限られていたので,均等に配灯することが不可能であった。しかし,全体的に明るくすることが客先の希望だったので,ベース照明は1/2照度角を80°に調整したLC6005(図2)を使用することで広い範囲に光を拡散させ,不規則な配灯ながらもベース照明の照度を均一化させた。(図3)

LC6005の有利な点は,パンチング部分から光が漏れて,天井面や壁面をほのかに照らすことが出来ることである。スポットライトでカバーすることの出来ない背の高い壁面什器の上部を明るくすることや,暗くなりがちなスケルトン天井を明るくすることも可能となり,視覚照度を確保することが出来た。シンプルな形状とパンチングのデザインが,無印良品の商品イメージに近いということも利点の一つと言える。

更に,セラルクス®150W(4300K)の使用により,演色性もRa65からRa95へと格段に良くなった為,商品は色鮮やかで魅力的な見え方をするようになった。全体の電気容量も38.695kVAから20.765kVAまで下がり,ランニングコストの大幅な削減に成功した。

図1 天王寺店 店内

図2 照明器具 LC6005

3.2 みなとみらい店

みなとみらい店は2004年4月,新高島駅の近くにオープンしたショッピングモール「リーフみなとみらい」の1Fに出店している店舗である。(図4)この店舗の特徴はガラスウォールに囲まれた正面入り口に面しているので,かなり強い外光が入ってくることと,当初一店舗だけで使用する予定ではなかったこともあり,空調や点検口,防炎垂れ壁などの天井設備が多かったことである。その為,ベース照明を規則的に配灯することが非常に困難な状態だった。

その問題点を解決するため,ベース照明もライティングダクトを使用したスポットライトで設計した。スポットライトを採用することで,陳列棚やステージの配置換えや,器具の増減などに対応できるという,メンテナンス上の利便性も向上した。

外光が入ってくることを考慮して,通常店舗よりも明るい1500ℓx~1800ℓx(机上面,維持照度),ステージ部分に関しては2500ℓx~3000ℓxを設定照度とした。器具はLC6050(図5)をワイド配光(1/2照度角80°)でベース照明として使用した。屋外から見える縦4mのヴィジュアルポスター面は,上から下まで均一に当てるためにナロー配光(1/2照度角20°)を1.2mピッチで配灯した。(図6)

図4 みなとみらい店 店内

図5 照明器具 LC6050

4. おわりに

施主側の一番の要望は,店内を明るくし,なおかつランニングコストを抑えることである。既存店舗では,既存設備に対してランニングコストの大幅な削減,新規店舗では,更に什器の移動やレイアウトの変更に対して柔軟に対応できる照明計画を心掛けた。実際,ランニングコストは半分近くまで削減し,明るさと演色性が良くなったことで,店内に活気が出たと喜んでもらえることができた。

省エネの点においては,技術の進歩もあり,問題なくクリアすることが可能である。しかし,ショップの照明計画において重要なのは,ただ満遍なく明るくするのではなく,抑揚感ある空間を作り出すことだと言える。全体的な明るさを確保しつつ,入口付近やステージ,壁面などを意識的に明るくすることで,リズム感ある光空間を印象づけることが大切である。そのことを念頭に置きながら,これからも更にイメージを膨らませ雰囲気の良い商空間造りに寄与したいと思う。

最後にご指導,ご協力を頂いた全ての皆様に心より感謝の意を表する次第である。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第10号掲載記事に基づいて作成しました。
(2004年4月28日入稿)


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