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照明技術資料

照明計画資料

展示物の照明

博物館・美術館照明

(1)目的

博物館・美術館には、優れた美術作品や貴重な文化財などが展示されています。このような場では、鑑賞者に心地よい雰囲気の中で展示物を鑑賞してもらえるような照明視環境の設定が求められます。また、展示物の多くは表8.1に示すように多くの劣化要因があるため、損傷保護にも十分な配慮が必要です。照明による影響には紫外放射による損傷と赤外放射による損傷があります。従って、保護の立場からは、照明上極力低い照度でありながら鑑賞者にとってはよく見える質の高い照明視環境にすることが必要になります。

表8.1 美術品・文化財の劣化要因

要因 内容
温度・湿度
  • 急激な温度変化による劣化
  • 高湿度による錆・かびの発生(金属・刀剣)
  • かびの発生・退色・強度の低下(布・紙・油彩)
  • 乾燥の繰り返しによるひび割れ・剥落(木・竹・漆・顔料)
  • 急激な温度変化によるひび割れ・破損(出土品)
汚染
  • 硫黄酸化物による脆弱化(紙・木綿等)腐食(銑・銅)
  • 急激な腐食(大理石)
  • 窒素酸化物の溶水硝酸化による腐食・変質(木綿・羊毛・塗料)
  • 塩分による塩解作用による腐食(金属)
  • アルカリによる劣化(絹・染料・顔料)
  • 紫外線による退色・変質
  • 赤外線によるひび割れ

(2)鑑賞のための照明

鑑賞の場においては、展示物が持つ姿・形・色等が好ましく、かつ正しく表現される照明視環境の設定が重要であり、次に示す項目についての検討が求められます。

2.1 照度

展示物に対する照明は、光放射による損傷保護の面から、鑑賞者に低照度で快適な視環境を作り、満足感を得てもらうかがポイントといえます。そのため推奨照度は、展示物への放射の影響を考えて決定されています(表8.2参照)。これらの推奨値は維持照度であり試用期間中は、下回ってはならない数値です。

2.2 輝度

照度を低く押さえた視環境下で快適に展示物を見るためには、人間の視覚生理特性に基づいた照明設計を行う必要があります。従って、来館者が入館から展示物に至るまでの空間においても光源や屋外の光り等の高輝度面を抑え、低照度・低輝度にする工夫、すなわち目の順応状態を低く抑えることが求められます。さらに展示物の輝度を背景輝度よりも高くするなどの明視の環境条件を整えることが必要となります。図8.1は、周辺の輝度と中心の輝度との比を変化させた場合の視力の変化を示したものです。背景となる部分の輝度の比率が高いと見え方が低下することを示しています。

図8.1 周辺の明るさと視力

(参考文献:あたらしい明視論1966 照明学会)

表8.2 博物館・美術館における展示照明の推奨照度

  • ※ 表の照度は維持照度を表しており、使用期間中は下回ってはいけない値。

(参考文献:JIS Z 9110 2010 財) 日本規格協会)

2.3 色温度

一般に色温度は、明るさ(照度)と関係して、「冷たい感じ」や「暑苦しい感じ」を与えるといわれています。その傾向を表8.3、表8.4に示します。これらの表は、照度が低い場合に、心理的に快適と感じる光色は、温かいと感じる光色、すなわち相関色温度が低い方であることを示しています。このことから許容照度値の低い展示物の照明には、色温度の低い光源を使用することが好ましいといえます。さらに色を忠実に正しく表現するためには、次の点に留意しなければなりません。

  • 色順応の妨げとなる光色のムラを作らない。
  • 平均演色評価数(Ra)が85程度以上の光源を用いる。

特に演色評価数の高い光源を用いたとしても光色のムラが大きいと色を正しく見せない場合があります。したがって、光色が大きく異なる光源の混光は避けるべきで、混光する場合は、色ムラを極力少なくすることが望まれます。昼光が入射するような場合は、光色の区分が「冷白色(5000K以上)」がよく、「白色(3300〜5000K)」では、色温度の高い側のものが適します。演色評価数は、平均演色評価数ばかりでなく、特殊演色評価数も高い光源が望まれます。

表8.3 光源の光色と見え方

光色の見え方 相関色温度(K)
暖色 3300以下
中間色 3300〜5300
涼色 5300以上

(参考文献:JIS Z 9110 財) 日本規格協会)

表8.4 照度・光色と心理影響

照度(ℓx) 光色の見え方
中間
500以下 快適 自然 不自然
1000〜2000 きわめて快適 快適 自然
3000以上 不自然 きわめて快適 快適

(参考文献:照明学会新照明教室光源)

2.4 光源の映り込みと反射グレアの防止

反射グレアの防止は、「目の位置」と「展示物」との位置関係により決まります。

2.4.1 絵画と光源の位置関係

光源の設置範囲は図8.2に示す範囲とします。

  1. 角αより小さい範囲に高輝度光源を配置すると、反射グレアの原因となるためその範囲の輝度を規制します。
  2. α+10度は展示面での拡散反射分を考慮した安全係数で、大きいほどよい。
  3. 展示物下端からの角度20度は、凹凸と縁による影を考慮したもので、大きいほどよい。
2.4.2 展示ケースと反射の範囲

映り込む可能性がある範囲を求め、その範囲の輝度を規制します。

  1. 目の位置を設定し、ガラス面(遠端と近端)での反射角を求めます。
  2. 展示物に光沢がある場合は、その面(遠端と近端)での反射角も求めます。

図8.2 絵画と光源の位置関係

図8.3 展示ケースと反射の範囲

2.5 人などの反射映像の防止

人などの反射映像を防止するために展示物の輝度(Lb)と反射映像(Lg)の輝度との比を5〜10倍にします。

Lb展示物の輝度(一般に、照度×反射率/π)
Lg反射映像の輝度(ガラス等の反射率×映り込む物の輝度)

2.6 計算例

反射率20(%)の展示物を200(ℓx)で照明し、その前面に立つ人の顔(反射率30(%))が映り込まないようにするには

展示物の輝度Lb=200×0.2/π=12.7
反射映像の輝度Lg≦Lb/10=12.7/10=1.27(cd/m²)以下にします。
ガラスの反射率を8(%)と仮定すれば、顔の輝度は次の値以下であればよい。Lface≦Lg/0.08=1.28/0.08=16 (cd/m²)
この時の顔の照度Eface≦Lface×π/反射率=16×π/0.3=170(ℓx)

(3)展示物保護のための照明

展示物を光放射から保護するには、「光化学反応」「温度上昇」及び「湿度の変化」を吟味しなければなりません。これらは、主に可視光、紫外放射、赤外放射の「放射量」とそれにさらされている「時間」に依存します。

3.1 光化学反応

光化学反応による損傷は、紫外放射及び可視光が展示物に吸収されることにより生じます。図8.4は損傷の波長特性を示した一例で、300〜380(nm)の紫外放射が損傷原因の約95%となっています。
したがって、損傷を少なくするには、損傷度の低い光源を採用すると同時に、見やすい照明条件を整えつつ低照度、かつ長時間照明しない等の総合的配慮が望まれます。照射物への影響を知る方法として損傷係数(米国商務省標準局:N.B.S.,現National Institute of Standard and Technology 参照)があります。損傷係数は、色紙の変退色の程度を数値化したもので、一般に、この値が小さい光源ほど展示物への影響が少なくなります。損傷係数は以下に示す式で求めることができます。また光源別の総称係数を図8.5に示します。

(D/ℓx)単位照度当たりの損傷係数
P(λ)分光エネルギー分布

図8.4 損傷の分光特性の一例

(参考文献:照明ハンドブック第2版)

表8.5 光源別損傷係数

光源の種類 損傷係数
青空・晴天の天空光 0.480
曇天の天空光 0.079
太陽の直射光 0.152
白熱電球 0.015
蛍光ランプ(普通形白色) 0.022
水銀ランプ(蛍光形) 0.063
メタルハライドランプ(蛍光形) 0.053
セラルクス 2800K 0.008
セラルクス 3200K 0.014
セラルクス 3500K 0.015
セラルクス 4300K 0.026
セラルクス 5500K 0.035
セラルクス ナチュラルレッド色 0.023
UVカットメタルハライドランプ(蛍光形) 0.025

変退色が生じるまでの時間は、照射物の種類、照度、光源の損傷係数により以下に示す式で求められます。

  • ※M.P.F:最小可知退色(Minimum Perceptible Fading)。
    かろうじて変退色を生じていることを識別しうる程度の変退色。

表8.6 最小識別変退色を生じる光量

サンプル M.P.F(白色蛍光ランプ)
85%毛・15%ナイロン 96万(ℓx)時
綿 100〜1000万(ℓx)時
100〜300万(ℓx)時
レイヨン 100〜1000万(ℓx)時
90%ナイロン・10%絹 400〜900万(ℓx)時
計算例
UVカット形メタルハライドランプ(セラルクス3500K)で照明した場合。
(照度1000 (ℓx) 、85%毛・15%ナイロンの場合)
変退色が認められるまでの時間
照明時間=96万(ℓx)時/1000 (ℓx) ×0.022/0.025=844(時間)
3.2 温度上昇

美術品や工芸品等の保存ならびに展示に伴う温度として、20±2℃が理想的気象環境条件として示されてきています。
物質の温度上昇は、主に次の3要因で決まり、光源の放射照度(W/m²/1000ℓx)を小さくすることにより軽減できます。表8.7に各種光源の放射照度を示します。

  • 光源の放射照度(W/m²/1000ℓx)
  • 物質の特性(吸収率、比熱、質量、表面積など)
  • 周囲環境の特性(気温、風速など)

特に赤外線は物に吸収されやすく、物質内の分子活動を活発にする性質があり、温度上昇をもたらし易いので注意しなければなりません。図8.6は、黒色塗装鋼板と白色塗装鋼板の温度上昇と放射照度との関係を実験により求めた例で、種々の物の温度上昇を予想するのに利用できます。

表8.7 光源別放射照度

光源 放射照度
(W/m²/1000ℓx)
黒色塗装鋼板1000(ℓx)時の温度上昇値(℃)
ダイクロールハロゲン電球 13 0.7
クールハロゲン電球 50 3.6
ビーム電球 57 4.1
蛍光ランプ 10 0.7
メタルハライドランプ 10 0.7
ハイラックス(3500K) 8 0.7
ハイラックス(4500K) 8 0.7

図8.5 放射照度と温度上昇値の当社実験による例

計算例
  1. ハイラックス(3500K)を使い黒色塗装鋼板を4000l (ℓx)で照射した時の温度上昇値。
  2. ハイラックス(3500K)を使い、黒色塗装鋼板の温度上昇値を1度以下に抑えるための照度値。

(4)湿度の変化

美術品等の保存湿度は、一般に表8.8に示す範囲が望ましいとされています。例えば、木彫物や塗り物などは、相対湿度が40%以下になると剥離が生じたり、刀剣などの金属は、60%以上になると錆が生じる心配があります。相対湿度は、展示物やその近傍の空気の湿度変化により変化します。
水分量が一定であるとすると図8.6を用いて相対湿度が求められますので温度変化に置き直し考えることができます

表8.8 美術品等の保存湿度

対象 相対湿度(%)
油絵 55〜60
漆器、寄木細工 55〜65
衣類、織物 50〜65
毛皮、皮、本、水彩画 45〜65
木製、粘土、陶器、金属 40〜65

図8.6 温度と水分量と相対湿度

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