創造人×話

クルマに命を与えるというデザインテーマ「魂動」のもと、様々な想いを込めてクルマの美しさを追求しています。

前田 育男さんマツダ株式会社
常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当

新型「マツダ ロードスター(海外名:Mazda MX-5)」が、2015年12月に発表された「2015-2016日本カー・オブ・ザ・イヤー」を前年の「デミオ」に続き2年連続受賞、そして翌年3月には2016年「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」をダブル受賞という快挙を達成するなど、日本はもとより世界中で高い評価を得ている日本の自動車メーカー、マツダ。今回は基本性能の高さとともに優れたデザイン性で近年注目を集めているマツダデザインを牽引するマツダ株式会社 常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当 前田育男さんをご紹介します。

日本の自動車メーカーの中でも、マツダは世界中から絶賛を浴びるクルマを次々と市場に投入し、そのデザイン性の高さでも注目を集めていらっしゃいます。まずは、マツダデザインの源となっている「魂動」というデザインテーマについてお教えください。

私がマツダのデザイン本部長に就任したのは2009年で、その時にマツダというブランドをもう一度ゼロから見直す良い機会を与えてもらったと考え、1年位かけてマツダのデザインの将来について熟考することから始めました。

私自身は、ただ一過性の新しいものをつくるということにはあまり興味がなく、ブランドという視点に立った場合、やはりしっかりとした伝統の価値、そして未来へとつながっていくコンセプトをつくる必要があるという思いが強かったため、マツダの持つDNAとは?また我々にとってクルマの存在とは何か?という観点で様々なことを考えました。

世の中には沢山のプロダクトがありますが、「愛車」のようにプロダクトに愛をつけて呼ぶことはなかなかありません。クルマを家族の一員のように愛し、乗っている人が世界中に多くいること、そして、その方々へ向けてクルマをつくり続けていくことが我々の存在意義であると感じ始めました。

愛がつくということは生きているということであり、クルマを単なる移動のための道具ではなく、生命観に溢れた存在にしたいという想いで試行錯誤した結果、クルマに命を与える、魂を与えるという意味が込められた「魂動-Soul of Motion」という言葉が生まれたのです。デザインの大きなテーマを一言で表すことは非常に難しく苦労しましたが、ビジュアルとしてカタチをつくる時、そこに源になる言葉がある意味は大きく、志を示すひとことはとても重要なのではないかと思っています。

魂動デザインを取り入れたマツダの新世代商品群

2010年にマツダのデザインテーマとして「魂動-Soul of Motion」、そしてコンセプトカー「靭(SHINARI)」を発表され、今や魂動デザインはマツダブランドを表す重要なキーワードとしてグローバルに浸透しています。デザインテーマとともにコンセプトカーをつくることは、どのような意味を持っていたのでしょうか?

「魂動-Soul of Motion」というテーマワードが大事であると同時に、我々の仕事はカタチをつくることですから、具現化が重要です。

最初に私がビジョンに込めた想いをカタチにした「靭(SHINARI)」というコンセプトカーをつくり、インハウスのデザイナーをはじめ、社内の皆に見てもらいました。やはり、カタチを見て初めて理解してもらえる点もあり、我々の目指すビジョン、ブランドとしての方向性を共有することができたのではないかと思います。そういう意味ではただのコンセプトカーではなく、ビジョンモデルという位置付けのものでした。

靭(SHINARI)

2010年に言葉とカタチをセットにして、グローバルデビューさせましたが、それから6年が経過し、今は海外の方が魂動デザインについて語るなど、おかげさまで世界に浸透しつつあると感じています。

ブランディングに対する考え方についてお聞かせください。

ブランドデザインという視点を持つことはとても重要です。マツダは以前と異なり、車種ごとではなく群として一貫性を持たせてクルマの魅力を伝えること、そして、よりブランド価値を高めていくことを重視しています。ブランドとして何を訴求していくかが大切なのです。

たとえば、ドイツにはドイツのスタイルが、北欧には北欧のスタイル、スカンジナビアンデザインがあるなど国としての様式がありますが、では日本のスタイルは何か、と考えた時にはまだまだ曖昧で、ある意味、せっかく日本が持っている伝統美が失われているのではないかという危機感を持っています。

新興国のクルマメーカーが増える中、伝統と歴史のあるブランドはアジアの中で唯一日本だけなのです。長い歴史の中で培われてきた、非常に繊細で計算し尽された美しさの追求をしていくことが、ひいては日本の様式につながるのではという考えのもと、メイド・イン・ジャパンにこだわり、凛とした空気感、日本固有の美意識をクルマづくりに生かしていきたいと考えています。

例えば、昨年秋の東京モーターショーで公開した、ロータリースポーツコンセプト「Mazda RX-VISION」では、カタチを研ぎ澄まし、要素を削り落すことによって生まれる緊張感や色気に日本の美意識を表現しました。動きを制御したシンプルな造形だけど、光が当たるとすごくドラマチックに見え方が変わっていく、そんな繊細な光の動きによる表情の変化は日本の美意識につながると考えました。

Mazda RX-VISION