光応用の知識

電子線滅菌

14.フィルムの劣化試験

各種のプラスチックフィルムに100kVと175kVで電子線を照射してその劣化の度合いを明らかにしました。

試験に供したフィルムはCPP(無延伸ポリプロピレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、EVOH(エチレンビニルアルコール)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、MXD-Ny(ナイロン)の5種類です。

試験項目は引っ張り試験と色差測定です。

引っ張り試験についてはCPPとLDPEで3か月以降175kVの方はいまだ伸び率を増していくにもかかわらず100kVでは増加が停止するという興味深い結果を得ています。これは100kVでは透過力がほとんどなく、EBの影響が表面に限られるため結果的に100kVのほうが速くラジカルが消滅してしまったためと推定できます。

表面殺菌は殺菌したいものの限りなく2次元に近い表面のみが処理されれば良いのですから透過能力の小さい100kVのほうが不必要な部分をなるべく変化させない意味で有効でしょう。

また、色差測定の方では6か月後の色差測定でPVDの175kV、30kGy照射で目視でもわかる程度まで黄変が起こりました。これに対し、同条件100kVではほとんど変化はありませんでした。この結果からも100kV電子線は劣化が少ないことがわかります。

表9 色差測定結果

 100kV175kV
15kGy30kGy15kGy30kGy
CPP0.140.130.170.15
LDPE0.290.310.330.26
EVOH0.170.140.230.092
PVDC0.630.931.044.78
MXD-Ny0.310.240.270.27

※表示値はNIST単位。
人間の目で感知できる最小値は1.5以上。

表10 材質に対する放射線の影響

素材放射線に対する安定性特記事項
ステンレス優れている材質劣化の試験ほとんど必要なし
アルミニウム
炭素銅
セラミック
ガラス着色する以外は問題なし
材質劣化の試験ほとんど必要なし
ポリスチレン崩壊するのに4×10⁴kGyの照射が必要とされているくらい放射線に安定
ポリエステル(テトロン)ポリスチレンよりも弱いが、放射線に安定
ポリウレタン
ポリエチレン100kGyまで引っ張り強さが増加、弾性率が減少する報告がある
ポリアミド(ナイロン)引っ張り強さと硬さが増加、伸張度と衝撃強さの減少
ポリ塩化ビニール良い黄色に着色、HCLを発生、溶出液のpHの低下。しかし、放射線滅菌用のものも開発されている
ポリ塩化ビニリデンポリ塩化ビニールよりも放射線に対して弱い
ポリメチルペンテンポリエチレンとポリプロピレンの中間ぐらいの耐放射線を持つ
エチレン酢ビ共重体ポリエチレンより弱いが、放射線に安定
ポリメチルメタクリレート黄色に着色、不透明化
ポリ・アクリロ・ニトリル
アクリロニトリルプタジエンスチレン樹脂(ABS)黄色に着色。ポリスチレンよりも放射線に弱い
ポリカーボネート100kGyまで安定。黄色に着色
エポキシ樹脂100kGyまで安定。
ポリプロピレン弱い黄色に着色。照射後経時的に材質劣化。ただし、耐放射線のものが開発されている
セルロース滅菌線量ではその性質を保持できる
ポリアセタール
ポリ四フッ化エチレン(テフロン)非常に弱い10kGy以下の低線量の照射で材質劣化が著しい
ラテックス優れている
ウレタンゴム200kGyまで安定
天然ゴム良い100kGyまで安定
シリコーンゴム80~100kGyまで安定
ブチルゴム弱い20~30kGyまで安定

図9 引っ張り試験結果


100kV、15kGy


175kV、15kGy


100kV、30kGy


175kV、30kGy

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